「花梨(かりん)。今日さ、四軒茶屋(よんげんぢゃや)にできた雑貨屋さん寄りたいんだけど」
その日、高幡(たかはた)花梨が授業を終えていつも通り帰り支度をしていると、友人の林雅(はやしみやび)に声をかけられた。
「この間話してたところだよね? 私も行く!」
そう言ってカバンを手に取ったとき――、花梨の携帯電話が鳴った。
慌ててポケットを探り、携帯を取り出そうとした拍子に、一緒に入れてあった黒い手帳が地面に落ちる――その手帳には、『警察手帳』の文字が刻印されていた――。
それを手早く拾うと、携帯の画面を見つめ、花梨はため息を吐く。
「......ごめんね、雅。仕事が入っちゃった」
すると雅は苦笑いし、「行っておいで」と手を振った。
花梨は高校一年生。
普段はどこにでもいる普通の高校生となんら変わりなく、学校生活を送っている。
だけど、もう一つの顔というものを持っていた。
それは、準警察官――学校で起きた事件を解決するために潜入捜査をする、警察官に準ずる資格を持った人間のこと――である。
何故、花梨が準警察官に選ばれたのか、詳しいことは花梨本人も聞かされてはいない。
しかし、準警察官としての職務を与えられ、もう三年近くが経過している。
花梨が呼び出されるということは、どこかの学校でなんらかの事件が起き、花梨が動かなくてはいけない事態に陥っていることを意味している。
花梨はいつも通り警視庁の地下二階にある所属部署、特別捜査第十五課に向かった。
「おはようございます」
花梨が到着すると、そこにはバディを組む戸枝恭一(とぐさきょういち)をはじめ、準警察官の資格を持った学生が何名か集まっていた。
「戸枝、早いね」
「今日は二限で終わりだったんだ」
戸枝は五年目の準警察官で、十八歳の大学一年生。
基本的に潜入捜査は二人一組で行われるため、花梨が準警察官になってからはいつも戸枝と行動を共にしていた。
「大学生はいいよねぇ。私なんて、せっかくの放課後の予定が全部パーだよ」
「俺だってレポートまとめてて、別にヒマしてたわけじゃないよ」
するとそこに、課長の火村暁(ひむらあかつき)がやってきた。
「二人とも、お疲れ様。悪いね、こんな時間からの呼び出しで」
「いえ」
「じゃあさっそく、今回の事件について説明しよう」
火村はそう言うと花梨と戸枝に資料を手渡した。
「さっそく一枚目から行こう。現場は私立品田谷(しなだや)学院。二年三組所属の松澤梨香美(まつざわりかみ)さんが殺害された。凶器は金属バット。複数回殴られ、頭がい骨は陥没していた」
被害者がうつぶせになって倒れているその写真は、後頭部が血で真っ赤に染まっていた。
「これは、背後から殴られたものですか?」
戸枝の質問に火村はうなずく。
「おそらくね。最初の一撃は背後から。それでも死ななかったので、もう二・三度殴った。次の写真を見てほしい」
二枚目の写真は、被害者の顔を正面から写した写真だが、左側頭部から額にかけてもバットで殴られたような跡がある。
「おそらく振り向きざまにまた殴られて、その後、逃げようとしてうつぶせで倒れ死亡した。......そんなところだろう。そしてバットのことだが、このバットは実際、野球部で使われているものらしいが、誰のものかというのはまだわかっていない。殺害現場は被害者が所属している百人一首研究会の部室で、死亡推定時刻は昨日の午後三時~九時の間と推定される。そして、問題は次の写真なんだ――」
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潜入高校生(日本語版)
Mystery / Thriller高幡花梨(たかはた かりん)は自身も高校生でありながら、学校で起きた事件を解決するために潜入捜査をする準警察官(警察官に準じる資格を持った人間)。 その日も花梨は相棒の戸枝恭一(とぐさ きょういち)とともに、殺人事件の起こった学校へ潜入することに。 この物語は短編で、完結したサスペンスミステリーです。 もしかしから、続編を作る可能性もありますが、今のところはこの話のみで完結します。 注意 1 この物語は殺人事件の謎をとく特性から、殺人の描写があります。 2 物語に登場する「百人一首」は...