自賞症状

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  約束を交わした次の日、大桜に違和感を覚えた。

  いつも僕よりそこにいたはずの少女がいなかったからだ。

  不思議に思ったが、しかし咲だって人間だ。たまに遅れることもあるだろう。

そう、僕が楽観できたのも一時間程度だった。

彼女がこないことに僕は次第にあせり始めた。

おかしい、咲がこないはずが無い。

これまでの行動からも咲がこの桜を、悔しいけど僕よりも好きで、いつまでも見ていたいと思っているのは明らかだった。

その上僕と約束までしたのだ。そんな日に限って来ない、そんなことをするような女の子だと思えなかったし、思いたくもなかった。

  もしかしてここに来るまでに怪我してたんじゃ、そんな不安が頭によぎる。探しに行きたかった。だけどここに至る道はたくさんあって、そして僕は彼女がどの道を使っているか知らない。

  不安が連鎖する。

  病気にでもなったのではないか。だけど僕は彼女の家がどこにあるか知らない。

  何日もここに来ていたから親に叱られでもしたのではないか。だけど彼女の家族にあったこともないし、彼女から話を聞いてこともなかった。

こんなことを考えていてはた、と気づいた。

  要するに僕は咲のことを何も知らないんだ。

  当たり前だった。僕は咲を彼女とあってから一ヶ月のほとんど敵として認識していたのだから。 

  少し前の自分を一発殴ってやりたい気分になる。そんなことできるはずないので今の自分を一発殴った。

  空を見るともう薄暗くなってきている。だんだんと日が短くなってくる季節だった。

こんな時間になってしまってはもう咲がここに来る望みはなくなってしまったと断定してもいい。本当ならあきらめて家に帰るべきだった。

  けれど足はいっこうに動かない。まだこの時間になっても咲なら来る、そんな気がしたからだ。

  「あと10分だ。10分待ったら帰ろう」

  自分にそう言い聞かせるためにわざと大きく声を出す。

  時計など持っていない。心の中で数を数え始める。

  1、2、3、...

  はやく来てよ。

  25、26、27...

  僕も桜もさびしいんだぞ。

  145、146、147...

  声が聞きたい。

  数が進むにつれて胸がちくちくと痛み始める。この痛みを鎮める術を僕は知らない。

469、470、471...

顔が、咲の笑顔が見たい。

767、768、769...

会いたい。

998、999、1000...

僕は君のことが、好きかも知れない。

会いたかった。会って伝えたかった。そうしないと胸のうずきは消えない気がした。

  今日は帰ろう。そして明日咲と会ったら彼女のことをもっとよく知るんだ。

  「明日来なかったら、針千本だからな」

  そうつぶやいてその場を後にした。

  あたりに静寂が戻る。

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A/N
  三回目の投稿です。
  新が自分の持ちをいよいよ認め始めました。
  読んだ方はぜひコメントください。首を長くして
  待っております〜。

大桜Where stories live. Discover now