急な坂道を登り、平らな草地に出ると、そこは色とりどりのお花畑が広がっていて、そこへ厚手の赤い毛氈を敷き、誰かがピクニックをしている。
その毛氈の上には少年と少女、その後には召使いがいた。
少女はアフラと同じくらいの年格好で、ノースリーブの卵色の長いキャミソール一枚着なのはとても山にはそぐわない薄着だ。
少年も同じ年頃で豪奢な礼服を着込んでいる。
二人は子羊に草を食べさせてはしゃいでいた。
「あっ羊!」
アフラは羊の姿を見て駆け出して、少女がアフラに気が付いた。
「あら。誰か来たわ」
アフラはすぐ前まで来て身じろぎをして、両手でスカートの両端を持ち上げながら礼を取った。少女が言った。
「かわいい! 近くの子かしら?」
キャミソールの少女が手招きをする。
「ここはとてもいい眺めよ。こっちへいらっしゃい」
アフラが近付くと、少年が立ちはだかった。
その背丈はアフラと同じくらいだろうか。風に棚引く絹のスカーフには高そうな宝石のブローチが付いていて、少年の面差しはドキッとするほど端正で高貴さが漂っている。
アフラは足を止めざるを得なかった。
「待った。それ以上来ちゃ駄目だ」
「止めないでよ!」
「ユッテ。気まぐれは駄目だよ。この辺りには風土病もあるんだ」
「もう! 私に干渉しないで!」
この二人が何故か喧嘩になりそうだったので、アフラは咄嗟に持っていた花束を差し出しつつ近くへ進み出た。
「あたしはビュルグレンの村娘です。この花をどうぞ」
「まあ綺麗!」
差し出されたその花へ少女が近付いて来た。
「ユッテ!」
少年は後ろを向いて手を広げた。
ユッテと呼ばれた少女はツンとそっぽ向いてから、クスッと笑ってその手の下をくぐり、アフラから花束を受け取った。そして赤い毛氈の上を一回りしながらその香りを嗅いだ。
「いい香り。ありがとう」
尚も通せんぼしている少年に、歩いて来た修道女が諭すように言った。
「何をしてるのベンケル。仲良くしてね」
少年は誤魔化すように手を頭の後に組んだ。
修道女と一緒にイサベラもやって来た。後ろからは貴婦人とアグネスが続いている。
花束を抱えたユッテが言った。
「イサベラが戻って来たのね。じゃあアネシュカの勝ち?」
イサベラは苦笑いで頷いた。
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Heartland over the world tree
Narrativa StoricaBefore the founding of Switzerland, it was the embryonic age when a nation was about to be born there. The forest country of Uri was an independent, autonomous community headed by the monastery of Fraumünster, and its people lived an idyllic, free a...