うわさ話

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「ねぇ、佳奈子ちゃんって好きな人いる?」

 その日は律が病欠で、佳奈子はクラスメイトの女子三人と昼休みに弁当を食べていたのだが、そのときにそのうちの一人、鈴木理沙がそう尋ねてきた。

 「いないよ」と佳奈子が即答すると、「じゃあ律ちゃんは?」と矢継ぎ早に聞き返される。

 律の恋と言ったら、真っ先に水泳関連の話が思い浮かぶ。しかし、その話を律自身が直接、理沙にしているかどうかわからない。だから佳奈子は「よく知らないけど......」と話すに留めた。

「実はね、律ちゃんには好きな人がいて、その相手が女子なんじゃないかっていう噂があるの」

「えっ!?」

 佳奈子が驚いて声をあげると、隣に座る渡辺綾乃がうなずいた。

「写真部の先輩に聞いたんだけど、柚木さんに告白したとき、『好きな子がいる』って言われて、どんな人かって聞いたら、『ずっと一緒にいたいって思えるすごくかわいい子』って答えたんだって」

 ――どうしてそれだけの少ない情報で、律の好きな相手が女子だなんて思えるのだろう? 今どきかわいいという形容は女子に限ったことではない。溺れたということは、おっちょこちょいなところがある人かもしれないし、そんなところを律はかわいいと思っているのかもしれない。

「うーん......、私としてはそれだけの情報じゃ女子とは思えないけど......」

「でも、柚木さんっていつも伊豆原さんにべったりでしょ」

 含み笑いを浮かべながら指摘した桜井由美に、「どういう意味?」と尋ねる佳奈子の声がこわばった。

 すると、「由美、言い方!」と理沙は咎めるように言って、「ごめんね」とわびた。

「気を悪くしないで? あくまでそういう噂があるってだけだから。佳奈子ちゃんと律ちゃんっていつも二人でいるしね?」

 要するに、律とセットで佳奈子自身も噂になっているということなのだろう。表情を硬くした佳奈子に、由美は「もし違うなら、違うよって言えるように伊豆原さん自身も知っておいたほうがいいかなって思って。余計なことだったらごめんね?」と言って佳奈子の顔色をうかがった。

 もちろん律のことは好きだ。だけど、その感情は友情以外の何物でもない。それを恋だなんておもしろおかしく話を広めている人に腹が立つ。

 ――その反面、この噂がどの程度まで浸透しているのか気になるのも事実だ。人々の興味を引く限り、根拠のない尾ひれをつけながら広まり続けるのが噂というもの。自分の知らないところで自分が嘲笑の対象になっているかもしれないと思うと気が気でなかった。

「......教えてくれてありがとう。でも私と律はあくまで気の合う友人だよ。誰かが変な風に言ってたら否定してくれると嬉しいな」

 すると、三人は協力すると言ってくれて、少しだけ佳奈子の気持ちを楽にした。

Destiny(日本語版)Kde žijí příběhy. Začni objevovat