高校に入学して初めての登校日。朝のホームルームで一人ずつ自己紹介をし終えた直後に、その出来事は起きた。
「ねえ、僕のこと覚えてる?」
入学式に出席するため、体育館へ移動しようと伊豆原佳奈子(いずはらかなこ)が椅子から立ち上がった、まさにその瞬間。
そのクラスの制服メイトは、佳奈子と同じ真新しいに身を包んだ女子生徒――のはずだが、佳奈子よりも背が高いショートカットであるため、少年のようにも見えるし、実際、自分のことを僕と呼んでいたような気もする。
「――えっと、幼稚園か小学校のクラスメイト......、かな?」
すると、目の前の少年のような少女は、傷ついたような顔をしながら静かに笑った。
体育館へと移動する道中、「柚木律(ゆずきりつ)です。よろしく」と律が手を差し出した。
柚木律、ゆずきりつ、ユズキリツ――いくら考えても、その名前に憶えていない。
「えっと......、柚木さん。ごめんね? あんまりよく覚えてないんだけど......」
気まずいムードの中、佳奈子が律の手を受けると、律は困ったように笑った。
「......いや、他人の空似だった。僕のほうこそごめん」
「えっ?そうなの?」
相手の勘違いだとわかってホッと胸を撫で下ろし、佳奈子は振り返り「伊豆原佳奈子です。よろしくね」と挨拶した。
「伊豆原さんはどこの中学出身?」
「私は大川三中。家が近所なの」
「あぁ、大川区か。僕はその隣の品田区」
「じゃあ、通学には西横線使ってる?」
「そうそう。君も?」
「そうだよ!」
家が近いと聞くと、途端に親近感がわいてくる。 さっきまでの気まずさが嘘のように、どこの駅にいい店があるなど他愛ない話で盛り上がった。
「そうだ。今日って朝で帰れるんだよね。良かったら、西横線沿線でお昼ご飯食べてない?」
律の提案に佳奈子は一瞬、言葉をつまらせた。律は初対面の佳奈子相手にも臆することなく接してくる。それは佳奈子が律の知っている誰かに似ているせいなのか、それとも律本来の性格が人見知りしないタチなのかはわからない。だけど、佳奈子は律ほどフレンドリーな性格ではないため、いくら同じ電車で通っていると知って話が弾んだとはいえ、出会ってからまだ十分も経たない相手とランチというのは気が引ける。
「ごめん、今日はちょっと......。持ち合わせがあんまりなくて......」
「そっか。僕のほうこそ突然ごめん」
嘘についてついて後ろ暗い気持ちから、律の顔をまっすぐ見ることができない。それでも律はそんなことなどおかまいなしに、「今度は事前に誘うことにするよ」とさわやかに言ってのけて、佳奈子を苦笑させた。
ŞİMDİ OKUDUĞUN
Destiny(日本語版)
Kısa Hikayeこの出会いは偶然だと思ってた――。 過去に縁のあった女子高生2人が時を越えて巡り合う。 この気持ちは友情? それとも愛情? この物語には、女性同士の恋愛を表す場面があります。 物語は短編というジャンルの性質上、一応完結という形はとっていますが、もしかしたら過去編や未来編を書くこともあるかもしれません。 無断転載を禁じます。