未来へ

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 二人は久しぶりに通学路を並んで歩いた。

 だけど、二人の間を流れる空気は、以前にこの道を二人で歩いたときのそれとはあきらかに違う。今思うと、あのころの二人の関係は、律が努力して作ってくれたものだった。

 今度こそ、この状況を打破するのは自分でありたい――そう思って、佳奈子は口を開いた。

「あのね、正直に話すね」

 すると律は、「イヤだなぁ」と佳奈子の決意を真っ向からくじく。

 佳奈子はおそるおそる「なんでイヤなの?」と聞き返す。

「佳奈子はマジメだから、ちゃんと考えてくれてるってわかってた。だから、こういう展開になるのを避けたくて離れてたんだけど......、でも僕も覚悟を決めなきゃいけないね」

 律はそう言って短く息をつく。

「......話して?」

 覚悟を決めた律の真剣な眼差しを受け、佳奈子は「ごめんね」と謝った。

「......正直に話すっていうのは、どうすればいいのかわからないって話なの」

 予想外の言葉を受け、律は面食らっている。そんな律の様子を見て、佳奈子は苦笑しながら「ごめんね」と重ねてわびた。

「私、どんなに考えても前世のことなんてちっとも思い出せないし、恋人だったって言われても全然ピンと来ない。だから、高校生になって律と出会ってからのことを考えたの。何も知らない私としては、出会いからしてちょっとおかしかったし、律ってすごく積極的に来るときもあれば、引いてるときもあって、つかめないなぁって思うこともあった。だけど、一緒にいると楽しいし、安心できる」

 そう言って佳奈子は律を見つめた。

 律の表情には明らかに戸惑いがある。

 佳奈子の真意をはかりかねて、不安に揺れる律の瞳を佳奈子はまっすぐに見つめた。

「......私、律のことが大好きよ。ただ、それが恋なのか友情なのかって言われると、たぶん今はまだ友情でしかなくて......。それじゃダメかな? 律はつらい?」

 うまくまとまらない佳奈子の気持ちを黙って聞いていた律は、「前世の記憶がある僕としては、本当にいろいろ複雑すぎて、何が一番いいのか、そのときによって答えが違うんだ」と小さく笑った。

「せっかくこうして現世でも出会えたんだから、どんな形であれ一緒にいたいって思える日もあれば、どうしてこうなってしまったんだろうって運命を呪って、一緒にいるのが苦しいときもある」

「じゃあ、律が一緒にいたいって思うときは一緒にいて、苦しかったらその気持ちを私に教えて? 私には前世の記憶がないからわからないって、そこで話を終わらせたくないの。だって律が悩むのは私だからでしょ? だったら一緒に考えようよ。二人で考えれば、もしかしたら何かが変わるきっかけになるかもしれない。話してダメだったら、また一緒にいてもいいやって律が思えるまで離れればいいじゃない。......っていうか、私が律と一緒にいたい言い訳かもしれないけど。......ダメかな?」

 本当は、運命というなら、また律を好きになるかもしれないと思った。でも、それは佳奈子にとって都合のいい想像にすぎない。期待を持たせるだけ持たせておいて『好きになれませんでした』では済まないから、口にはできなかった。

 そんなうかがうような視線を受け――律はなんとも言えない表情を浮かべながら佳奈子を見つめた。

「......そんな殺し文句言われたら、イヤとは言えないでしょ」

「!」

 仕方がないなと言わんばかりの表情から許されたことを知り、心の底から安堵して、佳奈子の顔にもようやく笑顔が戻った。

「でもまぁ、佳奈子がある程度の覚悟をもって僕といたいって言ってくれるなら、僕も覚悟を決めるから」

「えっ?」

「......どんな形であれ、また出会えた運命を僕は信じたいと思ってる。だから、これからは佳奈子の気持ちを振り向かせるくらいの意気込みでいくから。覚えておいてね」

 それは元恋人としてアプローチをするという意味にほかならず、佳奈子は戸惑いを隠せない。それでも、すっかり気持ちが晴れたように笑う律を見て、自然と佳奈子の表情も和らいだ。

「よし、じゃあこの話はここでおしまい。どこか寄ってく?」

 そう言っていつもの空気に戻したのはやはり律のほうだった。そんな律の気遣いを受けて、「そうだなぁ......、久々に買い物に行きたい!」と努めて明るく言うと、律は笑顔でうなずいた。

 そしてふと顔をあげた律は、踏切が鳴り出したことに気づく。

「こっちの電車だ。急ごう」

 そう言って走り出す律を「待って!」と言いながら佳奈子は追いかける。

「佳奈子!」

 律は振り返って佳奈子に手を差しのべた。自分からその手をつかみにいかないあたり、まだ律の中で葛藤があるのだろう。

 だから、佳奈子は躊躇なくその手をぎゅっとつかんだ。

 すると、律は笑ってその手を握り返してくれた。

 安心できるぬくもりをお互いに感じながら、二人は駅に向かって大急ぎで走った。

Destiny(日本語版)Donde viven las historias. Descúbrelo ahora