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「うわあああああああぁぁぁぁあ!!!」
僕は目を大きく見開いた。背中はびっしょりと汗で濡れていて、息は荒かった。
またあの時の夢だ。
「誠様!大丈夫にございますか?だいぶうなされていたようですが...」
聞きなれた声の方を見ると、千秋がいた。
「千秋か...?」
「はい、千秋にございますが。」
「そうか...よかった...」
「はあ...」
僕は冷静さを取り戻すために少し目を閉じた。
夢の出来事は七年前に本当にあったことだ。僕の名は奥田誠で、父の営む「エクストリーム奥田カンパニー」、通称「E.O.C」というバカみたいな名前の会社の後継ぎでもある。そしてこのバカみたいなカンパニーは何故かとっても発展していて、出来事のあった日に「トップカンパニーズにっぽん」のチャンピオンに選ばれていた。父のステージに上がり、business smile を作りながら賞状を受け取る栄光に満ちた姿はいまだに暖炉の上にホコリをかぶりながら飾ってある。千秋は奥田家の使用人で、唯一僕にかまってく
れた、たった一人の心を開ける存在だ。母はとても内気な人で、父には絶対に逆らうことができなかった。父の勘にさわるかと思い、母は僕に会うことを拒んだ。
その日の夜、父は「トップカンパニーズにっぽん」のパーティーでおだてられ調子に乗り、ぐでんぐでんに酔っ払っていた。そのせいで傲慢な父はより傲慢さを増し、自分に逆らう人はどんな手を使ってでも始末するのだ。そのことを全く知らなかった僕は父の言いつけを破り、千秋に頼んで一緒に人生初めての人形遊びを楽しんでいた。そして、事件は起きた。
そのせいで千秋の右半分の頭には包帯が巻かれている。まるで漫画のようだが本当のことだ。左半分の顔にはいくつかあざや傷があった。使用人の中で一番美しかった千秋は、僕のせいで一番見にくくなってしまったのだ。僕はずっと自分を許すことができなかった。千秋は僕のせいではないって言っていたが、あの事件の後千秋の部屋に「悪人許すまじ」と書いた千秋お手製の書が貼ってあり、少し背筋に寒気を感じた。
「誠様、朝食の準備が整っております。それと、旦那様がお待ちです。」
「父が?なんだろう...」
とは言ったものの、僕にはもうわかっていた。だって今日はそういう日だから。ベッドから出ると、千秋は新品の制服を僕に手渡した。見たことのない制服。そう、今日は始業式...ではなく、転校初日。僕はすでに中学一年生の秋を迎えていた。父のエクストリームな働きっぷりが評価され、奥田家はセレブ中のセレブに仲間入りしたところだった。そして僕はセレブ中のセレブのお嬢ちゃんとお坊ちゃんしか通えない超セレブ校に転校させられたというわけだ。
「だるいな...」
制服に着替えると、僕は今日の朝食の献立を予想した。きっと四角いものばかりだろうなー。豆腐とか。
朝食の献立は予想通り、キューブ状になった豆腐がたくさん入ったお味噌汁と白米。おかずはなし。いつもよりは少ないが、僕は少なめの方が好きだ。料理が角角している理由には語呂合わせと関係があって、「角角する」と「秘密を隠す」がかけてあるのだ。
そう、僕には秘密がある。この秘密は父の名誉がかかっている。だから父はこの秘密を必死に隠さなくてはいけない。僕にとってはどうでもいいことだが。
味噌汁を手に取ると、僕はそれをご飯にかけた。ねこまんまだ。うまいんだよな、これが。僕は箸を持ち、勢いよくそれを口にかきこんだ。すると、
「誠ちゃん、お行儀が悪いですよ!」
と聞きなれない声がした。母だ。全く気づかなかった。いつもは他人扱いしてるくせに、たまーに母親気取りしてくるんだよなーこの人。
「どうでもいいし、母さんには関係ない。」
そっけない僕の反応を見た母は黙り込んでしまい、小さく「ごちそうさまでした。」と言い、家のどこかに去っていった。本当は「母さん」じゃなくて「あんた」って言いたかったなー。そう思った僕はねこまんまをたいらげて、
「ごちそうさまー。」

後で気付いたんだけど、口の端にご飯粒が付いてた。

どっと一回恋に落ちWhere stories live. Discover now