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不良だ。本物は見たことないが、たぶん目の前の奴のようなんだろう。
「へっ?あっ...ここに入りたいんだけど、どうやったら入れるんだ...ですか?」
「あ?見ない顔だな。誰だお前。」
無視かよ。て言うか誰。
「えっと...僕は転校生で、今日からここに通うことになった奥田誠です。」
すると不良は「なーんだ」と言う風な顔になった。
「なるほど、だから今日制服着てるんだ。」
「へ?」
「今日は学校内のイベントやってるんだよ。各クラスが一つお題を決めて、それに合った服を着るんだ。ちなみに俺のクラスは「不良」だ。」
「へえー、そうなんだ。」
ちょっと待て。と言うことはこいつ...
「俺ここの生徒。びびらして悪かったな。田月汰裕だ。よろしく。」
ええええええええええ。どんなふざけた事をしているんだここは!コスプレを好んでいるのか、ここの理事長は!
「...よろしく。」
「お前どのクラスだ?連れてってやるよ。」
「一年C組...」
「へー、お前賢そうに見えるのに案外バカなんだな。」
この野郎...!
「悪かったな。で、どうやってここに入るんだ。」
「ああ、普通はわかんないよな。」
田月汰はそう言い、あの四角いメカのボタンを迷わず押した。
「ピンポーン。」
生徒用だったのか、あのインターコム!?
数秒後、インターコムが「ガチャ」という音を立てた。
「はい、華鈴精学院ですが。」
「すみまーせん、一年A組の田月汰裕です。一年C組の転校生の奥田誠もいます。開けてくださーい。」
「今ごろ到着されると遅刻ですが、これはどう説明しますか?」
遅刻...転校初日に...
「ああ、俺はクラスのお題らしく不良のように遅刻しました。何か問題でも?」
なんでもありだな。
「...」
あっ、黙っちゃった。
「では奥田誠さん、あなたはなぜ遅刻したのですか。」
「えっと、校舎内への入り方がわからなかったので、田月汰君がくるまでここで戸惑っていました。」
「そうですか。わかりました、どうぞお入りください。」
インターコムが切れた途端、鉄門が開き始めた。だけどその開き方は予想していた開き方ではなく、自動ドアの開き方だった。物好きな奴もいるもんだな。
「行こうぜ。」
「うん...」
僕たちが校舎内に足を踏み入れた瞬間、鉄門は閉まった。建物への道は百メートルほどで、その左右には赤い薔薇の花畑が広がっている。金持ち=薔薇というのは間違っていないようだ。
「この薔薇園の薔薇は特殊でさ、夜になるとごく稀にに光るらしいんだよ。でもそれはただの噂で、実際には誰も見たことがないんだってよ。」
「光る薔薇、か...どこかで聞いたことがあるな。」
「えっ!うそ、マジで?本当にあんのかよ。」
「ああ、昔母が光る薔薇のことを僕に話したことがあるんだ。「白い薔薇」っていうお話だ。」
「へえー。どんな内容なんだ?」
「...結構長いよ?」
「教えろ。」
「わかったよ。」
あの話は全部覚えている。珍しく母が僕に話したことだ、忘れられる訳がない。ただ、あの話はあまり好きではなかった。
「えーっと、「昔々あるところに、それはそれは美しい一人のお嬢さんがいました。そのお嬢さんの美しいこと、町中には収まらず、国中の男性からは彼女へのプロポーズの品として真っ白な薔薇の苗を送りました。しかし、彼女はプロポーズを全て断りました。「私よりも素敵な女性がいるはずです。」と言うのです。男性達は悲しんだものの、せめて贈り物だけでも受け取ってほしいと言い、薔薇の苗を置いていきました。
「このまま枯れてしまうのはかわいそうだわ」と思い、白い薔薇の苗を貰うたびに庭に植え、大切に育てました。その数は千本以上までにもおよび、美しいお嬢さんの庭は真っ白な薔薇に埋め尽くされました。そんなある日、一人の男が彼女の家にやって来ました。男は白い薔薇の苗を持っていなかったので、大事な用かと思い、美しいお嬢さんはすんなりと彼を家に入れました。するとどうでしょう。次の日、ある町人が薔薇園に横たわっていたあの美しいお嬢さんを見つけました。胸にはナイフが刺さっていたらしい。白い薔薇とワンピースは彼女の真っ赤な血に染まっていたと言う。男は消えていた。その夜、真っ赤な薔薇たちは不気味な光を帯びて花びらを散らした。」と、こんな感じな話だ。」
「...俺さあ」
「なんだ」
「お前嫌い。」
「はあ?なんでだよ。」
「なんでもだ。」
そう言うと田月汰は「一年A組」と書いた教室に消えた。その途端中から「よう、田月汰!」と「オメェ超ワルだな!」とか「田月汰ァァァ!おめぇイベントの日に遅刻とは何事だゴルアアアァァァ!」の主な三種類が聞こえた。最後のは先生だな。かなりノリノリの。まっ、そんなことより自分の教室に行かなくては。僕は五十メートルほどの廊下を突っ切り、「一年C組」と書いた教室に着いた。このクラスはどんなコスプレをしているのかなー、と思いながら僕はドアに手を掛け、引き開けた。そして想像以上の別世界にたどり着いた。
ライオンの着ぐるみ。
猫の着ぐるみ。
ペンギンの着ぐるみ。
黒板には可愛い文字で「動物園」と書いてあった。
...
...
...
動物園だとおおおおぉ!!!

どっと一回恋に落ちWhere stories live. Discover now