「じゃあ姉さん、左側の女性は? 女性は誰なの?」
「女性の方は、リザ・デル・ジョコンド(Lisa del Giocondo)だと思う。この人はこの絵のモデルとしてかなり有力視されているわ。ドイツのハイデルベルグ大学(Heidelberg University)図書館が、それを裏付ける証拠を発見したそうよ[注1][注9][注10]」< pic14 >
「ふーん」
「リザは、フィレンツェの織物商人、フランチェスコ・デル・ジョコンドの3番目の妻として嫁いだ人。この絵はもともと、フランチェスコ氏が、デル・ジョコンド一家の新居引越しと次男アドレアの出産祝いのためにレオナルドに制作を依頼したものらしいわ[注1][注11]」
「そうなんだ。それで、姉さんはどうしてその女性がリザだと思うの? やっぱり、今言っていたハイデルベルグ大学図書館が証拠を発見したから?」
「いいえ。私の場合は、さっきの『サライ』の場合と同様に、名前(イニシャル)のようなものが描いてあると思うからなの」
「ええっ? ど、どこに?」
「ここを見て」
私は、"謎の物体"の端の部分を指さした。< pic15 >
「ねえ、何が見える?」
「何って、姉さんの言う"謎の物体"でしょ?」
「そうじゃなくて、もっとよく見て」
「よく見てっていわれても......黒い線があるだけじゃない」
「そうよ! 黒い線、これは輪郭線よ」< pic16 >
「輪郭線? それがどうしたの?」
「この絵は、スフマート技法という特殊な技法で描かれているの[注1][注12]。美大で習わなかった?」
「スフマート、スフマート......あっ、思い出した。確か、油絵概論の講義で聞いた覚えがある。確か、輪郭がどうのこうのって言ってたような」
「それよ。色彩の透明な層を何層も上塗りして輪郭をぼかす技法ね」
「そのスフマートがどうしたの?」
「分からない? スフマート技法にとって輪郭線はNGなのよ。黒い輪郭線なんてありえないわ。でもなぜかここには描いてある」
「レオナルドが見過ごしたか、ちょっと失敗しただけなんじゃない?」
「いいえ、さっきも言ったけど、彼は完璧主義者だったの。こんな凡ミスをするはずはないわ。おそらくこれはメッセージ、この部分は違う次元で考えなさいと言っているのよ」
「違う次元?」
「そう、つまり"文字"よ」
「文字?」
「見て、黒い輪郭線をたどっていくと、この"謎の物体"が全体としてイタリア語筆記体のの文字を示しているように見えない?」
「うん、確かに。でも、仮にこれが『M』を示すものだとしても、リザとは何の関係もないんじゃない?」
「いいえ、リザの別名は、リザ・マリア・デ・ゲラルディーニ(Lisa Maria de Gherardini)というの[注13]」
「えっ、マリア?」
「そう、これはおそらく、マリア(Maria)の『M』よ。そして、サライの場合と合わせて考えてみると、どうやらこの絵には、モデルとなった人物のイニシャルが、黒っぽい文字で描かれているみたい」< pic 17>
「へえー、なるほど。でも姉さん、こんなことを言うのもなんだけど、『C』や『M』のイニシャルをもつ人なんて、探せばいくらでもいるんじゃない?」
「確かにそうかもね。でもこの二人、ある共通点をもっているの。たぶんそのことが、レオナルドがこの二人をモデルとして選んだ理由の一つになっているんじゃないかと思う」
「共通点って?」
「それはね、当時この二人はとても愛されていたということ。サライはレオナルドに、そしてリザは夫のフランチェスコ氏にね」
私は、南側の窓から差し込む日差しが弱くなってきたのをみて、レース柄のカーテンを中心から少しだけ両側に引いた。
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ラ・ジョコンダ
Misteri / Thrillerluiとluaの二人の姉妹 姉のluiが、レオナルド・ダ・ビンチ(Leonardo da Vinci)が描いた名画『モナ・リザ』についてどう解釈したのかを妹のluaに説明していく物語です。