私の考えていることは、はたしてちゃんと妹に伝わったのだろうか。いいえ、ちゃんとじゃなくてもいい。全てが伝わっていなくてもいい。たとえわずかでも、なにかしらの共感をもってもらえたのなら。
不意に、妹が振り向いて言った。
「姉さん、姉さんは今、ほとんどの人間がその心の中に"男性的要素"と"女性的要素"をもっていると言っていたけど、それらは一体なんのためにあるの?」
その質問に私は驚かなかった。それは、私の想定する範囲内にあったから。しかし、その質問にすぐに答える気にはなれなかった。私の用意していた答えは、自分でいうのもはばかれるくらい、ほんの少しだけ勇気を必要とするものだったから。
「lua、その質問は当然よね。実のところ、私にもよくわからない。けれど、この絵『モナ・リザ』を見ていて思うことが一つだけあるの。というか、今の私にはそれしか思い浮かばない」
妹は黙ったまま、私を見ていた。
「"愛の原資"よ」
つぶやくように言ってしまった私は、妹に聞き返される前に、息を込めて再び言い直した。
「"男性的要素"と"女性的要素"というのは、"愛の原資"となるもの、つまり愛の元になるものだと思う」
「愛のゲンシ? 愛の元?」
私は、自分の中にある答えについて、思いつくままに話を始めた。その答えは、ほとんど自分の直観に従うもので、あやふやなところが確実に存在し、整理するなどということがそもそもできなかった。
「"男性的要素"と"女性的要素"という2つの異なる要素があるからこそ、私たちの心は自ら愛を生みだすことができるし、他の人からの愛を享受することもできるのよ」
「キョウジュする?」
「愛を受け取ることができるということよ。受け取った愛は、"男性的要素"と"女性的要素"のそれぞれに振り分けられ、そしてそれらをさらに強くするのだと思う」< pic 39>
妹はキョトンとした顔をして聞いていた。
「私たちは、自分の2つの要素を使って愛を生み出して、自分自身や他の人に与えることができる。さらに、自分の要素と他の人の要素とをお互いに組み合わせることで愛を育むことができるし、そうして生み出された愛を互いに分かち合って、また他の人にあたえることもできる」< pic40 >
妹からの相槌はなかった。この私が『愛』について語るなど、彼女にはほとんど予想だにしなかったことなのかもしれない。
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ラ・ジョコンダ
Mystery / Thrillerluiとluaの二人の姉妹 姉のluiが、レオナルド・ダ・ビンチ(Leonardo da Vinci)が描いた名画『モナ・リザ』についてどう解釈したのかを妹のluaに説明していく物語です。