■第十七章:天落神(あまおちがみ)封印
勿論からくりはあるさ。
弾け飛んだ木像の首がにょきにょき生える筈はないからな。
なあに。そんなに難しい事じゃない。
まず、丸ごと一つ新しい御神像を作って置く。
ちゃんと首のある奴をね。
是はもう、造り物名人葛彦の出番さ。
事前にしっかり寸法を測って置き、下絵に描き写したんだ。
数ヶ月前から準備していた訳さ。
御神像のレプリカさえ作っちまえば、後は簡単だ。
硝酸セルロースを固めて、首のない御神像の張りぼてを作る。
此奴を御神像とすり替えて置くわな。
形さえ似ていれば良い。
どうせ見せるのは闇の中なんだから。
張りぼての後ろに首のあるレプリカを寝かせて置く。
だから六日目までは誰も入らせない訳だ。
後は簡単だろ。
台座の陰に隠れた黒子が、頃合いを見て張りぼてに火を点ける。
派手に炎が上がるわな。
見物人が眼を奪われた隙に、隠して置いたレプリカを立ち上げて、最初から其処にあった様に見せ掛けると言う訳さ。
雷神流のイリュージョンと言った所だね。
「大織冠神像破裂記」には、祈祷を捧げると御神像は平癒したと記録されている。
破裂するだけでも奇跡なのに、其奴が直っちまったんだ。
涙を流す聖母マリア像なんかより、余程有り難いだろう。
何度も破裂して其の度に平癒したってのは、梅の仕業ばかりじゃないね。多武峰の連中が真似をして、自作自演し出したんだな。
御神像が御怒りである。供え物を求めておられる。
なんてな事を言って、都から施しをせしめては「平癒」させていたんだろうね。
裂け目を付けて置いて、後から木屑と膠で埋めたんだろう。
可愛い悪戯さ。
御神像平癒のからくりに、時平はころりと騙された。
貞崇を探し出して来たのは宣道という事になっていたが、勿論三善清行の肝煎りであった。
其の後ろに道真の影があった事は言うまでもない。
兎にも角にも貞崇は法力僧に祭り上げられ、時平から雷神調伏を依頼された。
「調伏と言っても相手が相手。殺せば悪霊と成って、却って祟りを為すであろう」
「払う事は出来ませぬか?」
「雷神を結界で封じた上、道真殿を何処かへ遠ざけるが良かろう。道真殿と雖も、遠地から結界を破る事は叶わぬ」
「是非其の備えを御願い致しまする」
時平に異論はなかった。
雷神を封じ、結界を設けるにはどうするべきか。
貞崇は図面を描いて説明した。
まず穴師坐兵主神社が雷神の拠り所である事。
此処から都への災いは、兵主神社北方の醍醐寺を以て防ぎと為す事。
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鉄と草の血脈-天神編
Historical Fiction天神菅原道真。 日本人なら誰でも知っている学問の神様だが、日本最大の怨霊として恐れられた存在でもある。 道真は、「梅」と名付けた特殊能力集団を操り、雷神の力を駆使する超人であった! 電撃を飛ばし、火炎を操る。ある時は大地を揺るがせ、ある時は天を焦がす。 これは、道真の謎に独自の仮説で挑む超時空小説である。