■第二十二章:唐商人
「誰かあらぬか?」
鳶丸を伴った役人は、鴻臚館の小者を呼び出した。
「是は、真関(ませき)様。ようこそお越し下さりました」
「一体此の騒ぎは何事か?」
「はあ。唐人の一人が急病を起こした様子なのですが、此度の航海には医師を同道しておらず、当地の医師に診させている所です」
小者は疲れ果てた表情で事情を説明した。
「ならば、何を騒いでおるのじゃ?」
「言葉がどうも通じぬのです。症状を診ながら薬を飲ませたそうなのですが、一行に具合が良く成らんそうで」
「其れで文句を言うておるのか」
常ならば鴻臚館御抱えの通詞が症状を聞き取り、医師に伝えるのであるが、通詞がいない為に的確な診断が出来ぬのだと言う。
「言葉が通じんでも、筆談なら叶おう。医師は何故筆談で診立てをせんのじゃ?」
「其れが間の悪い事に、十日程前から医師の玄理が他出しております。
残っているのは弟子の白朝だけという巡り合わせでして。玄理程には学を究めておりませんので、筆談では診立てが仕切れぬ有様でございます」
「左様か。難儀な事よのう」
兎に角唐人に会おうという事で、真関という名の役人は奥へと通って行った。
特に許された訳ではないが、其の供という形で鳶丸は自然に付き従って行った。
鴻鷺館の奥へと進んで行くと、騒ぎの元に辿り着いた。中年男の唐人が、医者の形をした若者に詰め寄っている。
唐人は盛んに言葉を発していたが、医者、恐らくは白朝という男は首を振り、
「分からん。分からん!」
と、言い返すばかりだった。
「どうじゃ?」
真関が声を掛けると、白朝は疲れ切った顔で振り返った。
「舎人様ですか? 参りました。何を言うているのか分からんのです」
「うむ。病人の様子は?」
「熱があり、体が弱っている様子。風邪と診立てて、薬湯を飲まそうとしておるのですが、中々喉を通らんのです」
「其れで困っているという訳か」
取り敢えず病人を見ようという事で、文句を言っていた唐人も連れて病人のいる部屋に入った。
部屋には蒲団が敷かれ、初老の唐人が寝かされていた。
「××××!」
中年男の唐人が、病人を指差して何か言葉を発した。
「何を言っているか、分からんというのに!」
白朝が首を振ろうとすると、鳶丸が前に出て病人の傍らに跪いた。
「××××?」
鳶丸は中年唐人に話しかけた。
「××!」
唐人は目を輝かせて鳶丸の横に跪いた。
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鉄と草の血脈-天神編
Historical Fiction天神菅原道真。 日本人なら誰でも知っている学問の神様だが、日本最大の怨霊として恐れられた存在でもある。 道真は、「梅」と名付けた特殊能力集団を操り、雷神の力を駆使する超人であった! 電撃を飛ばし、火炎を操る。ある時は大地を揺るがせ、ある時は天を焦がす。 これは、道真の謎に独自の仮説で挑む超時空小説である。