泣き腫らした瞼が、すぐそばにある。
景はベッドに寝そべったまま、汗で濡れた理人の髪の毛をそっと撫でた。
気づけば窓の外は暗くなっていた。いったい何時間、理人を抱いていたのだろう。
――こんなひどいことを、するつもりじゃなかったのに。ずっと抑え込んでいたものが一気に壊れ、理性を失い理人を犯した。何度も、何度も。
想像の中では優しく理人を抱くことができていたのに、触れてしまえば歯止めが効かず、制止をキスで封じ込め、快楽で理人を支配した。
普段は理知的な雰囲気を漂わせる理人だが、セックスに溺れる様はあまりにも妖艶で、途方もなく綺麗だった。景に触れられることを口では拒みつつ、肌を震わせ腰をくねらせ、執拗な愛撫にとろけてくれる。かわいくて、かわいくて仕方がなかった。
だが、理人の蕩けた表情の向こうに垣間見えるのは、こうして同じように理人を抱いていたであろう高科の顔だった。
理人の身体を開き、快楽を教え込んだのはあの男だ。それを思うだけで、気が狂いそうになるほどの嫉妬を感じた。
あの男の舌が、理人の肌を這い回った。あの男の指が、理人の蜜壺を押し開いた。あの男の精が、理人を中から汚した――
甘い声で理人が鳴くたび、愛おしさを感じると同時に憎しみを覚えた。高科への怒りを感じると同時に、あんな男の前で脚を開いて、淫らな顔を見せた理人にも理不尽な怒りを感じた。
全く身勝手な感情だと頭では分かっている。だが、感情はコントロールを失って暴走し、理人への愛撫が荒くなる。
『あの男とは、どんな風にしてたんだ』『もっと奥まで、突いてもらってた』『俺みたいな男に乱暴にされてるのに、こんなに濡らして……いやらしい身体になったんだね』『もっと欲しいの ふ
ふ、よくもそんなことが恥ずかしげもなく言えるね』
喘ぎ声も掠れ始めていた理人を自分勝手に穿ちつつ、無神経な言葉をたくさん投げた。獣のように後ろから理人を貫き、これは罰だと言わんばかりに、白い尻を強かに打った。そんな仕打ちをされているというのに、理人はきゅうきゅうと景を締め付け、甘い声で可愛くよがり、美味そうな蜜を滴らせた尻を突き出すのだ。
理人を抱きたいと思っていた。だが、これは果たして自分の望んだ形だろうか。
優しさのかけらなど微塵も感じさせないような、暴力的で嗜虐的なセックスを押し付けて、思うさま中に注いで、もうだめ、もうむり、と叫ぶ理人を犯し続けた。
「……ごめん」
――こんなセックス、大嫌いなのに。……力ずくで相手をねじ伏せて、自分の欲望を押し付けるなんて、獣以下の、最低な行為だ。
不意に、ずきんと頭の深部が刺すように痛んだ。
景はきつく眉根を寄せて息を止め、ふらふらとベッドから降り、服を探す。
「っ……はぁ……はぁっ……」
今も消えることのない、忌まわしい記憶。景の全てを壊した、あの悪夢。
いくらカウンセリングを重ねたとしても、いくら時間が経ったとしても、忘れて前へ進むことなどできるわけがない。
ピルケースから錠剤を取り出し、景は震える指でそれをつまみ上げた。口に放って奥歯で噛めば、苦い味が口いっぱいに広がって、どうしようもなく不快な気分になる。
「……はぁ……くそっ……くそっ……」
ワイシャツを羽織っただけという格好で、景はその場で項垂れた。理人を抱いていた時とは異なる汗が、べっとりと背中を濡らしていく。全身を這い回る手の感触がざわざわと肌の上に蘇り、景は思わず口を覆った。
「う……うっ……ふぅっ……」
「……景」
「っ……」
弾かれたように顔を上げると、ベッドの上で理人が上半だけで起き上がっていた。
「……どうしたの」