それから一週間が経ち、景のヒートは収まった。
だが、世間は今も騒がしいままだ。美園一族のスキャンダルがニュースというニュースを席巻し、警察庁上層部の腐敗が、ことごとく暴かれはじめている。美園一族の息のかかった警察官僚たちは全て解任の上取り調べを受ける身となり、人事にも大幅な動きがあった。
美園優一も、当然のごとく逮捕された。
オメガ人身売買に関する一連の事件が暴かれた上、景に対する脅迫罪やその他諸々の余罪が明らかとなったからだ。
こうして景はようやく、美園の手から逃れることに成功した。
リビングに敷いたラグマットの上にあぐらをかき、真剣な顔つきで新聞を読んでいる景の姿を眺めながら、理人は少し微笑んだ。
窓の外はきれいな秋晴れ。レースーカーテンを揺らす風からも熱気が収まり、爽やかな空気が部屋を満たしている。
居心地の良さを肌で感じていると、全身を雁字搦めにしていた薄暗い過去の呪縛から、ようやく解き放たれたような気分になった。ことん、と、カフェオレで満たされたマグカップを景の前に置くと、景はハッとしたように顔を上げ、難しい顔から笑顔になる。
「ありがとう」
「うん。……ていうかさ、それはいいんだけど、そろそろ何か着ろよ。風邪引くぞ」
「あぁ……うん、そうだね」
シャワーを終えたばかりの景は、黒のボクサーパンツ一枚という格好で、首にタオルを巻いている。この一週間ですっかり見慣れた景の肉体だが、こうして見ていても、実に目に麗しいきれいな身体だ。
初秋の日差しを受けて透き通るような白い肌が、しっとりと汗に濡れ、熱を帯びて薄紅色に染まっていたさまを思い出すだけで、理人の胸はどきどきと高鳴った。
これまでは発情している時以外に、こうして性的な欲求を感じたことは一度もなかった。だが、景を目の前にしていると、性懲りも無く、また肌を合わせたいと思わされる。
景を初めて抱いた体験も素晴らしいものだったが、あのあと、いつものように景に抱かれたりもした。普段の余裕などまるで消え失せ、獣のように理人を求める景の情熱は、途方もなく猛々しかった。
互いのネックガードを外し、生まれたままの状態で抱き合った時もあった。普段は触れることもできない首筋の柔らかな肌に、理人は何度も歯を立てた。
かつて、暴力によってそこを傷つけられた景のうなじには、微かだが薄い痕跡が見えた。その傷跡を白い肌の上に残しておくことが許しがたく、理人は後ろから景を愛しながら、何度もうなじを咬んだのだ。
景もまたそれを望んだ。うわごとのように、「もっと咬んで、もっと……」と繰り返す景の求めに、理人もまた我を忘れた。血が滲む景のそこに舌を這わせて、何度も何度も奥で注いだ。
そして、同じことを何度も、景にされて……。
「理人 どうかしたのか」
「…………えっ」
「ぼうっとしてる。さすがに疲れた」
「あ……あ、ああ、うん……まぁ、さすがに」
頬杖をつき、いたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを見ている景に、ついつい素直な返事をしてしまった。
理人は景ほどの体力はないし、慣れないことをしたということもあって、何度か体力の限界を迎えてしまったのである。そういう時は景が調子に乗って攻めてくるものだから、抱かれながら「もう無理…… も、許してぇ……」と懇願することもしばしばだった。
だがそういう時は、二人でただただ抱きしめあってキスをしたり、言葉を交わしたり、手淫や口淫などで高め合い、鎮めあった。それだけで、心も身体も幸せに満たされた。
相手が高科だった頃とは、また違った過ごし方だなと理人は思った。アルファはオメガフェロモンに対して激しい興奮状態となってしまうため、冗談抜きでセックス漬けの一週間を過ごすことも多かったものである。意識を飛ばしてしまうことも、一度や二度ではなかった。