「はぁ……っ……はっ……ぁ……ぁうっ」
「理人、理人……っ……っん……」
シーツの上で、白い肌が絡み合う。
ベッドに座った景の上で、理人は夢中で腰を振っていた。
「あ、あっ、……んっ、はっ……」
耳穴を舐めくすぐられながら、胸の尖を執拗に愛撫され、甘い刺激で全身がとろけてしまいそうだった。動こうと思わなくとも腰は勝手に上下して、本能的に快楽を貪っている。
耳元には、景の抑えた喘ぎ声。いつぞや抱かれた時よりも、今は景の存在をよりリアルに感じる。汗ばんだ白い肌も、切なげに自分を見上げる蜂蜜色の瞳の色も、理人の中で質量を増す景のそれも、以前よりもずっとずっと、理人の本能を狂わせた。
「けい……ぁっ……また、いきそ……ハァっ……はぁっ……」
「また、イってくれるの…… 理人はアルファのペニスに慣れてるんだ、俺のコレじゃ、満足でき
ないんじゃないのか」
「そんなこと、ない……っ。……ァっ、あん、けいの、きもちいい……ハァっ……きもちいい……」
「へぇ……嬉しいこと、言ってくれるんだね。子どもの頃は、あんなに恥ずかしがり屋だったのに」
「そんなのっ……しらない、しらない、ァっ、ぁ、んっ、んっ……」
絶頂を煽るように、景はさらに下から激しく突き上げてくる。理人がたまらず景にしがみつくと、汗にしっとりと濡れた背中に、景の手のひらが添えられた。その感触は甘く切ない快楽となり、びりびりと全身を駆け巡った。
「ぁ、いくっ……、いく、ぁ、あっ、けいっ……ンッ……ぁっ……」
最奥まで景を飲み込みながら、理人は全身を震わせ、達していた。
目の眩むような快感で、全身に力が入らない。くったりと全身を預ける理人を抱きしめている景もまた、「はぁ……はぁ……」と切羽詰まったような吐息を漏らしている。
「……っ……きつ。ははっ……理人、すごくエロいね……。こんなふうになるまで、あの男に躾けら
れたのかと思うと……すごく、腹が立つけどな」
「ふぅっ……ぅっ……」
「あぁ……俺も、イキそ……。理人、寝て」
「ん……ぅ、うん……」
景はそっと理人をベッドに横たえると、ぐっと身を乗り出して、雄々しく腰を使い始めた。さっきよりも、いっそう中を激しくかき乱され、理人はシーツを掴んで背中をしならせる。
「ぁ ぁん、っぁ、やぁっ、あ」「はっ、はぁっ……はぁっ……りひとっ……すきだよ、愛してる……ハァっ……はぁっ……」
両脚をあられもなく開かされて、尻を突き出す格好にされてしまうと、愛液に溢れた結合部から響く音が、理人の耳を甘く犯した。景は理人をまっすぐ射抜きながら、ひりつく表情を切なげに歪める。
「ぁぁ……っ……イく。出すよ、理人……中に……っ……」
「けいっ……ぁ、ぁ、あっ ぁ、……ふっ……ンッ……」
「いっぱい、飲んで……俺のものになって……理人っ……」
どくん、どくんっ……と景が中で果てたのが分かった。熱いものが腹の奥で迸る感触に、理人の
全身がふるふると震えている。
番の精でも、アルファの精でもないそれを、理人の胎内は喜んで食らっている。オメガ同士で孕むはずはないのに、なぜだかとても、景の体液を愛おしく感じた。
「はぁ……っ……はっ……」
全てを吐き出した景は、理人に体重を預けるように、くったりと脱力した。しっとりと濡れた景の背中に腕を回して、理人も深く呼吸をする。
「景……」
名前を呼ぶと、景は腕に力を込めて、そっと顔を持ち上げた。
すぐ間近に、きらきらと澄んだ光を湛える瞳がある。長い睫毛に囲まれた形のいい目を、理人はうっとりと見上げていた。
「……ごめん」
景は小さくそう呟くと、そっと理人の中から出て行った。楔を失った身体の奥が、妙に虚しく、さみしかった。
理人は重だるい身体を持ち上げて、全裸のままキッチンで水を飲む景の姿を、じっと見つめた。
「それ、なんの謝罪だよ」
「……理人の言う通りだなって。早く、理人が俺のものだっていう証が欲しくて。……また、一人で
突っ走ってた」
「……」
グラスの一つに水を注ぎ、景がベッドに戻って来た。惜しげも無く晒されたしなやかな肉体を改めて目にすると、なんだか無性にドキドキしてしまう。景からグラスをもらって唇を潤しながら、理人はしげしげとワイシャツを羽織る景の姿を見つめた。
だが同時に、この美しい肉体をすでに誰かが穢しているのかと思うと、無性に悲しいような、憎々しいような、痛ましい気分に襲われる。景が高科に感じている嫉妬とはまるで異なる感情だろうが、それは理人をひどく苛立たせた。「景こそ、さ」
「……うん」
「もう絶対、俺以外のやつと寝るなよ」
「……え」
理人の発言に、景はひどく驚いたような顔をしている。理人はベッドの上にあぐらをかき、追い重ねるようにしてこう言った。
「セックスなんて安いもんだなんて言ってたけど……。俺はやだよ。景が、俺以外の誰かとセック
スするとか」
「理人……」
「美園のこと……すげぇ、やだったもん。もう、しないでほしい」
理人のもの悲しげな訴えに、景はふと相好を崩す。そしてすっとベッドに腰を下ろすと、ぎゅっと理人の裸体を抱きしめた。
「うん、しない。これからはずっと、理人だけだ」
「……ほんとかよ」
「当たり前だろ なんのために、俺がここまでしたと思ってるんだよ」
「……そうだけどさ。なんか心配っていうか」
「それを言うなら、俺のほうこそ、まだ心配事があるよ」
「え」
景は理人の肩に両腕を置いたまま、こてんと理人の肩口に額を乗せた。
「……俺にはもう、番はできない。でもね、理人にはそれができる」
「い、いやいや、だからそんなのもういらないって、」
「違う。理人にその気はなくても……もし万が一、『運命の番』が現れたら……。俺のことなんて、
すぐにどうでもよくなってしまうに決まってるよ」
「運命の番って……」
聞いたことはある。
ごくごく稀なケースとして、魂同士が強烈に惹かれ合う相手が現れることがあるのだと。
だがそれは、何万人に一人の割合だと聞く。オメガとアルファの夢物語として語られる、おとぎ話のような話なのだ。いきなり非現実的なことを言い出す景の台詞に驚きつつ、理人はそっと景の身体を抱き返した。
「そんなの、いるわけねーじゃん。あんなの都市伝説みたいなもんじゃないか。それに俺は、アルファの匂い自体が無理なんだぞ 番なんて、もういらないよ」
「……うん、そうだね」
「明日にでも連絡して、この首輪を外せるようにするから。そしたら……お前が、新しい首輪を俺
につけてよ」
「でも……いいのか」「いいよ。……景が、そんなことまで不安に感じてたなんて知らなかった。これでお前が、ちょっと
でも安心できるなら」
「……うん、ありがとう」
理人の言葉に、景は安堵を示すかのように深いため息を吐いた。
そして二人はもう一度視線を交わし合い、ゆったりと微笑み合う。吸い寄せられるように唇が重なった。
柔らかな唇の感触を味わうように、角度を変えたり、時折視線を交じらわせたりしつつ、しばらくキスで戯れる。そうしているうち、理人の肉体は、再びじわじわと熱いものに支配されてゆく。ついさっき与えられたばかりの快楽を思い出し、最奥がむずむずと高ぶり始める。
「景……今日は、泊まってく」
「うん……泊まる。明日は、久々の休みだし」
「ふうん、そっか……」
短いやり取りを交わしながら、二人は再びベッドに倒れこむ。
戯れのキスが徐々に熱を帯び始めるのに身を任せ、理人は景を愛撫を心地よく受け止めた。